温泉巡りの醍醐味が詰まった「北温泉」初探訪記⑩3日目は北温泉チェックアウト編その2

餞別はおにぎり二つ

2015年11月21日、北温泉で2日目の朝を迎えました。8時ころに朝ごはんを食べ、宿泊部屋である松の間313号室で少しくつろいでいると、誰かが扉をノックしました。昨晩私を拉致監禁した2組のご夫婦の誰かに間違いないと思い、今日も朝から悪がらみされるのかとワクワクドキドキしながら扉を開けると、目の前に立っていたのは、2組のご夫婦のお一人である、坊主で全身お絵描きの男性の奥様(通称すずさん)でした。すでに浴衣ではなく出かける服装です。

すず「もう行くね。これ、道中でお食べ」

手渡しされたのは、握りこぶし大のおにぎり二つでした。戸惑いと感動が隠せず、鳥肌が立ちました。

私「ありがとうございます。おにぎり、大切にいただきます。今から高湯温泉に向かわれるのですね」

昨晩、2組のご夫婦からは翌日に高湯温泉に行くことを聞いていました。

その中のガラの悪い男性の方から「お前もついてくるんだぞ!」と絡まれ、

私「いや、申し訳ないですが、明日はどうしても名古屋に帰らねばならないのです。せっかくのお誘い感謝しますが、今回ばかりはどうか遠慮させてください」といった神経戦を20分ほど繰り広げていたのです。

私「お気をつけて」

すず「そっちこそ気をつけて帰ってね」

が最後の会話だったと思います。

私が宿泊した松の間313号室は、北温泉を往来する道の正面にあり、部屋の窓から2組のご夫婦の後ろ姿をお見送りすることができました。ガラの悪い男性の奥様が振り返り、私の姿を認め指をさしました。その後、残りの3人も振り返り、私に手を振ってくれました。4人の姿が見えなくなった途端、寂しさと脱力感が一気に押し寄せてきました。

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松の間321号室の窓からの眺め。2組のご夫婦は、この一本道を帰っていった

チェックアウト。また来ると心に誓う

2組のご夫婦が帰られた後、私は最後の天狗の湯を堪能しました。天井から吊るされたランプの明かりが照らす夜の天狗の湯はもちろん趣深いですが、日の光が差す朝風呂もこれまた素晴らしいものです。

そして、10時少し前に、私もチェックアウトしました。滞在時間は約17時間。たった17時間でしたが、本当に濃密な時間を過ごせました。建屋の外観・内装、部屋のつくり、温泉、空間、匂いなど、北温泉が持つリソースのすべてが、私の理想とする温泉宿をはるかに凌駕するものでした。往来する一本道の途中、北温泉の方を振り返り、また来ようと心に誓いました。

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チェックアウト後の一本道の帰路の途中、思わず振り返り、再訪を誓いました

最後の日帰りは最恐「喜連川早乙女温泉」

東北自動車道那須インターの少し手前に「チーズガーデン那須本店」があります。初めての栃木県ということもあり、やはりここに立ち寄ってお土産を購入しないわけにはいきません。チーズケーキ、本当に美味しかったです。2020年4月時点で、私の中のチーズケーキランキングで第3位です。

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チーズガーデン那須本店。今のところ北温泉に宿泊した際は、10発10中お土産を買っています

さて、名古屋に帰る前に、最後の立ち寄り温泉に向かいます。事前リサーチでは泉質面で日本有数の評価を受けている「喜連川早乙女温泉」です。レンタカーを返し新幹線に乗る宇都宮駅の近くにあるという便利な場所に立地しています。

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喜連川早乙女温泉

私はものすごく沢山の温泉に入ってきたわけではありませんが、そこそこの数はこなしてきたと思っています。そんな私にとって、喜連川早乙女温泉は泉質日本最恐です。私にとって泉質日本最強は長野県にある加賀井温泉一陽館ですが、日本最恐はここ、喜連川早乙女温泉です。

その理由ですが、私はR-1のペットボトルに温泉を入れて収集するという奇人変人な趣味があります。もちろん、この喜連川早乙女温泉の湯もペットボトルに入れて持ち帰ったわけであります。

ある日、部屋中に卵が腐ったような毒ガスのような匂いが充満して、何か変なものが撒かれたのか!と大慌てをすることがありました。原因を探るべく部屋を隅から隅までチェックしたところ、温泉ペットボトルのコレクション箱から異臭がします。一本ずつ確認したところ、喜連川早乙女温泉のペットボトルがとんでもない異臭を放っていたのです。しばらく涙が止まりませんでした。悲しくてではありません。あまりにも刺激が強い匂いであり、完全に鼻がひん曲がってしまったのです。温泉が腐乱していたのです。ペットボトルに汲んでから2週間後のことでした。

私は温泉ペットボトルを100本ほどコレクションしていますが、喜連川早乙女温泉以外のペットボトルから異臭を放ったことはありません。たとえ腐乱していたとしても、ふたを閉めている限り、匂いはおとなしいものです。5年前に汲んだ硫黄濃度日本一の万座温泉のペットボトルからも匂いはしません。しかし、喜連川早乙女温泉の湯は、腐乱すると、ふたを閉めているにもかかわらず、人に危害を与えるほどの刺激的なとんでもない匂いを放つのです。それほど泉質が濃厚で奥深いものであるということの裏返しだと思っています。

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これが日本最恐「喜連川早乙女温泉」の分析表

総括

この北温泉初探訪記は、おにぎりの差し入れがクライマックスでしょう。私は純粋に温泉が好きなので、成分や浴感などにも興味がありますが、おにぎり差し入れまでの過程で自分の身に起こった様々なことこそが、北温泉の魅力だと思いました。

ちなみに2つのおにぎりは、1つは喜連川早乙女温泉に入浴する前に、もう1つは帰りの東北新幹線の中でいただきました。

この北温泉初探訪記の後、私はこれまでに4回北温泉を訪っています。毎回、たくさんの人に出会い、ふれあい、笑顔を共有しています。私にとって、最も癒されるオアシスなのです。

2020年のゴールデンウイークも北温泉を2泊予約していたのですが、これを執筆している2020年4月18日、新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が全国に範囲が広がったのを機にキャンセルしました。本当に残念でなりません。感染拡大が収束し、近いうちにまた北温泉に宿泊できることを心から願っています。

北温泉をはじめ、私たち温泉好きに感動を与える温泉たちが、新型コロナウイルスに負けず生き永らえることをお祈りして、この北温泉探訪記を終わりにします。