温泉巡りの醍醐味が詰まった「北温泉」初探訪記⑤2日目は北温泉宿泊編その3(北温泉入湯)
北温泉旅館は初めての人にとって、あたかも迷路
2015年11月20日金曜日、念願の北温泉旅館にチェックインしました。松の313号室、ちょうど正面玄関真上の部屋です。行く人来る人を眺められる最高のロケーションを味わえます。
まずは浴衣に着替え、お茶をすすり、部屋備え付けの「ご案内」に目を通しつつ憩いの時間を過ごしました。はやる気持ちを抑えるという意味もあります。
その後、館内を探検しました。松の建物は、不可思議なつくりをしており、初めての人にとっては迷路の気分を味わうことになると思います。1階と中2階と2階があるような感じで、天狗の湯の手前で1階と中2階が合流するような感じです。その合流地点の近くにある階段で2階に上がります。よくわからないように、あえて説明を下手に書きましたが、初めての人にとって、本当に松の建物は迷う作りになっています。
廊下には、明治天皇と日露戦争時の重鎮たちの写真ポスターが掲示されていたり、いつの時代かわからないプール風呂の入浴の仕方の指南が書かれたものが掲示されていたりします。温泉宿の中には、時代を感じる品々をガラス張りのケースに入れて後生大事そうに通路に展示しているようなところがたくさんありますが、北温泉は無造作に掲示したり置いたりしています。すなわち、昔からそうしているといった具合です。北温泉の奥深さの一端です。
いよいよ天狗の湯とご対面
館内の探検もほどほどにし、いよいよ天狗の湯とのご対面に向かいます。天狗の湯の前には簾があり、その右手に少し気になる部屋があったので覗いてみると、そこは自炊場でした。この自炊場は、今では私が北温泉に宿泊するときは必ずお世話になっています。使い勝手がよく、蛇口から出る湧き水が大変おいしいのです。さらには、この自炊場を利用する者同士のコミュニケーションが、北温泉で過ごす時間をより有意義なものにするのです。
さて、この時覗いた自炊場では、大柄な坊主の男性が浴衣を着て野菜の皮むきをしていました。後ろ姿だったので顔はよくわかりませんでしたが、おそらく40代半ばくらいだと思います。この男性の自炊場での姿を見て、どこか憧れを感じ、私も今では北温泉自炊場ユーザーとなったわけです。ちなみにこの男性とは、この後、再びお会いすることになります。そして、この北温泉初探訪記を決して忘れることのない思い出にするエピソードにつながるのです。
簾の近くに行くと、天狗さまが薄っすらと見え隠れします。憧れの天狗の湯が目の前にあります。ザバザバザバザバと、浴槽に流れ入る温泉が轟音を上げています。気持ちがはやってはやって仕方がない中、よく冷静に何枚か写真を撮っていたものです。自分で自分を褒めてあげたいと思います。
簾を左手で除け、ゆっくりとくぐりました。目の前に現れたのは、コンクリートをごっそりとくり抜いたような、数多の年月を刻んできたことが一目でわかる長方形の浴槽。そして、正面に天狗の湯の天狗、左手にも天狗、そして正面の天狗の湯の天狗の対面にも小さな天狗と、豪華にも浴槽を取り囲んで3面に天狗。この光景を目の当たりにし、天狗の湯が沢山の人に愛されていることが、ものの数秒で理解できました。
感動に浸るのは湯に浸かってからにしようと思い、早速ザブン。私は温湯好きということもあり、この時の天狗の湯は熱かったです。温度計を持参し忘れたのですが、肌感覚で43℃。テルマエ世代の初心者への軽い洗礼だと思いました。
2015年11月20日17:00、一人っきりで初めて天狗の湯へ入湯。今では、天狗の湯は、宿泊者同士の和気あいあいこそが醍醐味だと思っていますが、この時の独泉は、それはそれで贅沢極まりないものでした。まさしく、湯が生きているのです。
北温泉では、天狗の湯やプール風呂の源泉は、この天狗の湯の写真のすぐ左にそびえる山のどこかから湧いています。どこから湧いているのかは不明だそうです。山のどこかから湧いている源泉が、山肌を伝って、写真の左下に写っている湯口に直接流れ込んでいるのです。したがい、当然、その湯には生命力が溢れています。フィルターはあるのですが、大雨後は枯れ葉が浴槽に混入してきたり、土が混じって湯が濁ったりします。本物の天然温泉の証拠です。
温泉は、地下から湧いているので、足元湧出の温泉があったり、自然湧出で湧き上がる温泉があったり、掘削でくみ上げる温泉があったりします。つまり、下から上へが温泉の常識です。しかし、北温泉は、地下から湧いてくることに変わりないのですが、温泉として姿を現すのは私たちよりはるか上方であり、上から下へ流れ込んでくるのです。極めて稀有なものと思われます。