温泉巡りの醍醐味が詰まった「北温泉」初探訪記⑧2日目は北温泉宿泊編その6(松の間321で拉致監禁)

なぜ天狗に誰も来ない?

私は、2015年11月20日23時から24時の約1時間、北温泉の天狗の湯に入浴していたのですが(まあ実際は、2分ほど浸かって、後は大きな天狗の下の湯舟の縁に腰を掛けていたのですが)、普段の日常生活ではなかなか面識を持つことはなさそうな2組のご夫婦に囲まれて身動きが取れないような状況でした。ほぼ拉致監禁状態です。男性の一人は推定40代後半、坊主で全身にお絵描き(仮に坊さんとします)、もう一人の男性も推定40代後半、哀川翔さんに似ておりガラの良く無さが一級品(仮に哀さん)。坊さんの奥様の姐さんは、30歳くらいの大人びた広瀬すずさん似(仮にすずさん)、哀さんの奥様の姐さんは、30歳くらいの森口博子さん似(仮にひろさん)。

後から振り返って思ったことなのですが、こうした男性の方々って映画やドラマでは容姿端麗な女性を連れているというイメージがあるのですが、現実の世界でもそうなんだということを、この北温泉で身をもって知りました。イケてる女性ってやんちゃな男性が好きなのでしょうか。

個性的な2組の夫婦に囲まれて、気が小さい私は恐怖におびえていました。この日は平日ということもあり、全体的にお客さまは確かに多くはなかったのですが、23時から24時というと、まさしく天狗の湯のゴールデンタイム。週末や連休中は必ずにぎわう時間帯です。この日もいつか誰かが入りに来るだろうと、そしたら私一人だけが拉致監禁状態ということから脱することができるだろうと、心のどこかで期待していたわけです。

ところが、いつまでたっても人は来ませんでした。天狗の湯からのガラの良くない声や変な雰囲気の賑わいは、おそらく松の間の廊下にまで余裕で響き渡っていたと思います。天狗の湯の入口には扉が存在せず、ただ簾をくぐるだけなので、隣接する松の間には大きな声はダダ洩れなのです。天狗の湯に向かう途中に、こうした声が聞こえて引き返していったお客さまもいたかもしれません。私だったらすぐに引き返します。残念ですが、そりゃ誰も入ってきません。

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23時から24時という天狗の湯ゴールデンタイムにもかかわらず、この日は他のお客様は誰も顔を出さなかった。おそらく途中で引き返したのではないでしょうか

 天狗の湯に一番近い部屋「松の間321」

さて、私は、天狗の湯を上がった後、この2組のご夫婦が宿泊される部屋「松の間321号室」に連れ込まれたのです。恐怖でおびえていたのは間違いないのですが、北温泉にいるため解放的になっていたせいか、「もう、どうにでもなれ」という気分に徐々になってきていました。ただ、やっぱり面倒くさいことにはなりたくないので、言葉遣いだけは最大限注意を払おうと心に決めていました。

少し話はそれますが、この2組のご夫婦の部屋「松の間321号室」は、天狗の湯に最も近い部屋なのです。これまで北温泉で宿泊した時に何人かの常連さんとお話しして知ったことですが、北温泉をこよなく愛するお客さまや常連さんは、「松の間321号室」を指定して宿泊予約をするそうです。いつしか私も宿泊してみたいと思っているのですが、実は躊躇しているのです。「松の間321号室」は、廊下の足音、階段の音、天狗の湯から漏れ聞こえてくる話声などで、繊細な私にとって全く寝付くことができそうにない環境なのです。321号室から3つ横の318号室に宿泊した時ですら、あらゆる音に悩まされ、2連泊で総睡眠時間は3時間足らずでした。北温泉に来たということに興奮していることも理由としてあると思いますが、本当に寝付けないのです。まあ、いつかは321号室に宿泊するということを夢見て、これからも北温泉に足を運びたいと思います。

酔っぱらいの対処がよくわかりません

2組のご夫婦の宿泊部屋「松の間321号室」に入ると、まず目に入ったのは、こたつの上のピザやチャーハン、そして、いくつかの酒のつまみのような食べ物でした。これらを自炊場で料理されていたということです。畳敷きの床の間には、ビールやチューハイの空缶が散乱。天狗の湯でも薄々感づいていたのですが、この方々は酔っぱらっているということです。だから、ガラの良くない話し方にも拍車がかかったのではないかと推測しました。もちろん風貌は厳ついことに変わりありませんが。

私は下戸です。したがい、酔っぱらった時に気分が高揚するということに共感できません。なので、酔っぱらいの対処の仕方がよくわからないのです。もうこうなっては、約10年間、偏差値競争で勝利を収め、世の中ではお偉い方と称される人たちを相手に営業してきた時のノウハウと経験値を武器に、つまり相手の方を立てに立てるという手段でこの場を乗り切ろうと覚悟を決めました。

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写真は私の泊まった松の間313号室ですが、松の間321号室でのやりとりの時の座席はこうなっていました

詰問再開

ほどなくして、私に対する詰問が再開しました。本当に根掘り葉掘り聞かれました。私みたいな人間を掘り起こしたところで何も面白いことなんか出てこないのに、そんなに掘ってどうするんですか?酒の肴にもなりませんよと何度も何度も言いたくなりました。

質問には言葉遣いに最大限気を払いながら誠実に答えました。言っていいこととダメなことの境目は、自分の中でしっかりと線引きしているつもりなので、この線引きルールは遵守できたと思います。

自分の生い立ちや出身地、高校、大学なども聞かれました。質問内容自体に、別に何か深い意味があるわけではありません。その場のノリみたいなものです。例えば、私の通っていた高校は、大阪の阪急電車「十三(じゅうそう)駅」が最寄りだったんですが、大変治安のよくないことで有名でした。

私「高校は阪急電車の十三の近くでした」

坊「俺も十三に2年間住んでたぞ。駅前の〇〇って店はまだあるかなー?」

すず「何その店は?エッチな店じゃないの?そんなとこ行ってたの?」

なんて、普通の居酒屋トークに花を咲かせているような感じではあるのですが、私にとっては、高校時分に発生した十三駅での銃撃殺人事件に関わってないよな?と訝しんだりしてしまいました。当然、本人に問いただすことなんてできません。

すず「下着付けたいから、こっち向かないでね」

と私の背後に行って、無防備だった浴衣の下を正されました。ほどなくして、すず「こっち向かないでねって言ったのに、どうして本当に向かないの!?」と叱られました。

私「えっ?ダチョウ倶楽部のノリで良かったんですか?」とこれには思わず聞き返してしまいました。

すずさん、完全に酔っています。いや、4人とも完全に酔っています。ここで、この4人は、私が恐れているほどヤバい人たちではないのかもしれないという出来事がありました。4人がまた一杯やり始めたのですが、そうなってくると、当然私もお酒を勧められました。

私「私は下戸で本当に飲めないのです。一口でも付けたらご迷惑をおかけするかもしれません」ときっぱりお断りしました。決して盃を交わしたくないというわけではありません。ただ単にお酒が飲めないだけです。

ひろ「じゃあ、ウーロン茶でいい?」と逆に気を使っていただいたのです。

あれ?いつの間にか私が接待されています。こたつの上にあるピザやチャーハン、その他のおつまみも勧められ、これは旨いとばかりにバクバク食べてしまいました。私の食べっぷりが印象良く映ったのか、メインで料理されたと思われる坊さんは喜んでいられたように思います。

坊さんは普通に相槌を打つ係、ひろさんは私の飲み物や食べ物のお世話係、哀さんは相変わらず口悪く詰問する係、すずさんは悪酔い係といった感じです。

すず「これまでの一人旅での一番のハプニングは何よ?」

いやいや、今この瞬間が一番のハプニングに決まっているじゃないですか!とはとても言えませんでした。私はこの時点で10年以上も一人旅での温泉巡りをしてきているわけですが、これといったハプニングに遭遇したことはありませんでした。

すず「出会いとかないの?その場限りも含めて」

私「いやー、そういったハプニングは全くないんです。しょうもない男で申し訳ありません。ただ、男女にかかわらず、一期一会は温泉巡りの醍醐味だと思っています」

すず「そんな優等生な答え求めてない!」

すずさんお叱りです…。

私「温泉ではないですが、出張で品川プリンスホテルに泊まった時、一人で日本に旅行できていた台湾の女性が……」といったエピソードを披露したところ、

すず「じゃあ、私が一人旅でここに来てて、天狗で私と逢ったらあんたはどうすんの?」

私「はっ?」私の拙いエピソード披露は、すずさんの勢いに拍車をかける結果となってしまいました。

すず「私を抱けるの?抱けないの?どっちなの?」

私「はっ??」すずさん、完全に悪酔いです。

99.9%の男性は「楽勝で」「余裕で」「こっちから土下座してでもお願いしたい」といった肯定的な回答をするでしょう。しかし、全身お絵描きのある旦那さんである坊さんの手前、YESという回答は難しいですし、かといって、NOという回答もすずさんのさらなるお叱りを買うことになりますし。坊さんの方をチラッと見ると、なぜだかニヤニヤしています。そういう趣味なのか、公開美人局なのか、ただ単に酔っぱらっているのか、何とも計り知れませんでした。

迷った挙句、「大半の男性と同じ回答だと思います」と遠回しの回答をしました。

すずさん「何それ?どっちってこと?」

坊さん「ってことは、おばさんはムリです。ってことか」と絶妙な突っ込みを入れていただき、すずさんの矛先は坊さんに向いて、無事この難局を乗り切ることができました。

結局一睡もできず、朝を迎える

こんな感じで、いいようにおもちゃにされ、気付けば午前4時。さすがに4人は眠たいとのことでお開きとなり、私はやっとのことで解放されました。

「おやすみなさい」と松の間321号室を出ようとしたその時、哀さんから、「明日の朝はプール風呂で集合写真撮るから、お前はカメラマンやれ!そのあとはお前も一緒に入って撮るぞ!」

私は反射的に「はい、承知しました」と答えてしまいました。

哀さん「あと、何かあったらお前の部屋行くかもしれんから」

はっ??何かあったらって何があんの??何もあるわけないやん!!と反論しようと思いましたが、これについても「承知しました」とあたかも下僕の回答。

自分の313号室に戻ったとたん、ドッと疲れが押し寄せてきました。やはり相当気が張っていたようです。ただ、興奮が冷めやらぬ状態であり、布団に入っても全く眠ることができません。ただ時間が過ぎ、外は明るくなり、あっという間に朝を迎えてしまいました。